絶滅危惧商品


 雨が少ないせいか,宮城県にはため池が多い.何年ぶりかでため池で小魚でもとってみるかと,これ

セルビン

を釣具屋に買いに行ったが,なかなか見つからない.何軒かまわり,ようやく片隅にほこりをかぶっているのを見つけて買ってきた.490円.ずっと昔から400円ぐらいだったから,値段はほとんど変わっていない.
 もともとこれはガラス製だったが,割れやすいのでセルロイドで作られるようになった.タナゴやモロコなどを捕るためのもので,川で使えば,ほかにオイカワやウグイの仔などがちょこっと捕れる程度.一番ポピュラーな小ブナやドジョウやメダカはほとんど捕れない.意外と守備範囲がせまい道具である.それでもとにかく数はたくさん捕れた.ねらいは小魚だが.1回に100匹なんてのは普通のことである.子供心にもお手軽でゴージャスな魚取りだった.そういうわけで,手軽な魚取りの道具として人気があった.
 しかし,その守備範囲の狭さが災いした.タナゴやモロコはため池や湖に多い.そういうところは昨今のブラックバスの密放流で軒並みバスとバスの口に入らない大型魚以外何もいなくなってしまった.そうなると,このお手軽でゴージャスな魚取りも,できるところが本当に少なくなってしまう.バスが増えたこととは別に,一時はペットボトルを利用しての自作も見かけたことがあった.そのせいで売れ行きも若干落ちたかも知れない.しかしこれも,結局バスが増えてタナゴやモロコがいなくなってしまったため,自作のものも最近はさっぱり見かけない.既製品も,自作のものももろとも絶滅寸前である.
 バスが増えてがらっと変わるのは,魚の世界だけではない.それをとりまく人間のほうも大きく変わってしまった.セルビンが売られていないということもそうだが,スポーツ紙の川や湖の釣りの欄がうんと単純になってしまった.今ではアユとバスとヘラブナと渓流魚ぐらいである.私は関西出身なので,春先の琵琶湖のホンモロコ釣りに始まって,アマゴ,ヘラブナ,ヒガイ,アユ,コイ,ハス(オイカワ),下りウナギ,ワカサギなどと,バラエティーに富んだ記事がにぎやかに出ていたのを思い出す.関東ならマブナ,タナゴ,ハヤ(ウグイ)などの記事が出ていたのだろう.
 これらの釣り物それぞれに応じた道具もやはり,絶滅寸前なのではないか.小さくて硬い口に合わせて作られた袖ヒガイなんていう鈎など今でも手にはいるのだろうか.袖ヒガイの1号,それもハリスなしなどというのを自分で結ぼうなどという人はたぶんいないだろう.


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