絶滅商品


 昭和30年代の夏休み.魚獲りといえば,ガラスの「びんづけ」を使っていた.いなかの家は琵琶湖の出口,瀬田川の近くにあり,その川べりにある駄菓子屋か荒物屋の軒先にひもでぶら下げて売られていたものを買い求め,その足で岸辺(「浜」と呼んでいた)に行った.1個60円.水中で水平になるように中にひもを通し,口に布ぎれでせんをして,停めてある小舟の先から水底におろしてタナゴなどを獲った.当時の餌は削り節でよかった.

びんづけ

 写真は千葉県で池干しがあったときに出てきたものである.泥や藻でひどく汚れていたのでハイターを使ってゆっくりとふやかして洗った.とても貴重なものである.何しろ割れやすいので現存するものはほとんどないのではないか.
 夏休みの魚獲りも最後は必ずびんづけが割れて終わる.びんづけを仕掛けていると,沖をエンジン付きの小舟が通る.すると10数秒後にうねりのような波がやってきて,川底のびんづけをゆらす.粗雑な薄いガラスでできたびんづけは2,3度ゆれたかと思うと川底のかわらけと当って割れてしまう.そうならないように,沖を船が通ったらびんづけにくくり付けたひもを引っ張って底から少し引き上げてやるのだが,何度も船が通るうちに油断して引き上げるのを忘れ,川底からパキャンという音がかすかに聞こえてくる.
 昭和40年頃,割れにくいセルロイドでできたセルビンが登場した.1個400円ぐらいだったと思う.当時としては高価だが,何度も使えるので結局安上がりで,以後,ガラスのびんづけを買う事がなくなり,いつの間にか駄菓子屋の店頭からも消えた.最後に見たのは瀬田川近くの古ぼけた金物屋の店頭で,ほこりをかぶっていた.昭和50年頃のこと.それ以来,ガラスのものが売られているのを見た事はない.
 あらためて池底から拾いあげたものを見ると,昔使っていたものとは形が違うような気がする.瀬田川べりで売られていたものは,口に写真のようなふちがなく,すぼまったところがもう少し長く伸び,すとんと切り放しになっていたように思う.それにもっと肉うすで割れやすかった.関東と関西で形が違うのだろうか.


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